王様の瞳 〜町娘も来た Baldax〜
なんじゃ〜?
今日はワシの隣に見慣れ無いヤツがおる。
ちょっと、ヨレた服に高級とは言いがたい
出で立ち。聞くと自分より遡ること
20年から、30年前の中判ジャバラカメラ。
名をBaldaxと言うらしい。
写真を撮る。と言う行為が今より特別な
ことだった世代の写真機。しかも、ワシの
ような特別なカメラでは無く、普及機の
ようじゃ。
それでも、時を写し撮る。と言う点では機能
は同じ同志じゃな。
ま、ワシは町娘と呼ぶ事にしたが。
ファインダーも小さいのー。コリャ、主人の
老眼にはかなり厳しそうじゃ。
上下で像を合わせるスプリットタイプ。
距離計が連動してるだけ大したモンじゃ。
このあたりは整備がモノを言って機能して
いるが、精度などはあまり期待してはいかん
だろうな。
積んでる目、つまりレンズはTessar8cmの
f2.8。
Tessarと言えば我がZeissの中でも、鷹の目
と言われる、シャープな写りで有名だが、
流石にこの時代のTessarは片鱗は出ているが
そこまでの性能は発揮出来て無いようじゃな。
が、かなり頑張って独特な雰囲気を醸し
出している。とは言えるかな。
裏蓋には窓があり、フィルムの送りが見える
様になっておる。
フィルムの巻き上げは今や巻き上げノブを
目一杯回せば1コマ分が巻き上がるが、この
時代の写真機は必ずしもそうではないから
コマ被りしないよう巻き上げるのもウデの
ウチだった訳じゃ。
が、しかし、この町娘は工夫があって、
巻き上げノブを一旦、巻き上げと逆方向に
巻き戻す。自転車のペダルを逆回転させる
イメージじゃな。コレをする事で巻き上げる
際に、およそ1コマ分の回転が出来る様に
なっている訳じゃ。
そして、フィルムの装填だが、かように左右
のフィルム室が開くのである。ワシ的には
町娘が、こんなはしたない。とも思ったが、
この機能のおかげでフィルムの装填はやり
やすいと言う訳で、当時のモノ作りに対する
工夫が偲ばれる。
メカニカルな部分はレンズシャッターで
T.B.から1/400までのシャッタースピード。
シャッターチャージ用レバー、ピント
レバーはレンズ左にあり、絞りはレンズ
右についている。
そして、シャッターは機械的リンクを介して
カメラ左上のシャッターボタンに繋がってい
る。
故に、そーっと、半分くらい押す感じで
シャッターが切れる。押し込み過ぎると
この機械式リンクが壊れてしまうのが難点。
しまう時はレンズ繰り出しも最短にして
畳む、なかなか身体は柔軟じゃの。
そして流石に娘っ子。スリムになってカバン
にもサクッと入るなんて抜け目無いのぉ。
モノ好きな主人はまたフィルムを入れた
みたいなんである。
こうしたカメラは一般向きとはもはや言え
ないじゃろうが、使って面白い。と思える
危篤な御仁が使えばまだまだ、捨てたモン
でも無いと余は思うんじゃがの。